環境影響評価制度の問題点

北海道自然保護協会・会誌「北海道の自然」 No.31(1993年3月25日発行)より

環境影響評価制度の問題点

サホロ・トマムの例より

芳賀 耕一  

サホロリゾート拡張計画の環境アセス始まる

 1991年4月、新聞記者の「サホロリゾート開発構想についてコメントを…」という電話に「えっ、何ですか、それ」。サホロリゾート拡張計画の環境アセスメントが始まった時、私は拡張計画のこと、アセス制度のこと、そして自然のことも、何も知りませんでした。でも、ザル法と呼ばれる環境アセスメントに一生懸命取り組むことができたのは、何も知らなかったお陰かも知れません。とにかく意見を言わなければ後悔することになると思い、アセスメント制度への疑問・町の財政負担・ゴミ処理・ゴルフ場農薬・水質汚濁・合成洗剤などについて意見書提出・公聴会公述を行いました。
(サホロリゾート拡張計画の内容については、昨年の「北海道の自然」第30号をご覧ください。)

環境影響評価審議会の権限

 1991年9月にサホロリゾートの環境アセスメントは環境影響評価審議会へ諮問されましたが、審議は予想より長引きました。事業者によれば「こんな時勢なので審議会の先生方もハッスルしていらっしゃる」との事でしたので、もしかすると厳しい答申が出るのではと期待する気持ちもありました。
 しかし答申が出る少し前に事業者から「環境アセスは事業の許認可をする制度ではない事を、道が審議会の先生方に説明している」との話が出るなど、道が環境アセスメンを形骸化しようとしている様子がうかがえました。

南斜面スキーコースが北斜面へ計画変更

 当初、サホロリゾートのスキーコース拡張計画は、既存の佐幌岳東斜面コースを増設し、新たに北斜面と南斜面も開発するというものでした。私たちは佐幌岳北斜面でクマゲラの採餌木を確認したことなどから、事業者との協議を続ける中で、特に北斜面の開発について見直しを求めてきました。
 ところが審議会答申を聞いて驚きました。私たちには一言も知らされないまま、南斜面スキーコースを北斜面に移すことになっていたからです。事業者にすれば、雪が少ない南斜面と引き換えに、雪が多く大木も残る北斜面にスキーコースを拡大できることは願ってもないことでしょう。道・審議会も「リゾート開発では初の計画修正を求める答申」を出すことにより、環境アセスメント制度に対する世間の批判を和らげようとしたのかも知れません。
 この日は、話し合いによる解決を求めてきた私たちにとっては、自分達の甘さを思い知らされた日になりました。私たちは世間知らずの楽天家で「相手をつい信用してしまうのだけれども、裏切られては運動が盛り上がる」パターンを繰り返しているようです。
 さて、計画変更についての審議会小委員会の見解は次の通りです。
 第一点は、計画の変更が小委員会に提案されたことです。今までも事業者からの文言の修正や訂正等の提案があり、その訂正文の内容を考慮して審査を行ってきたわけですが、本案件では文言の内容あるいは計算方法の訂正といった部分的な修正の他に計画そのものの変更が提案されたわけであります。このような計画変更はそれに伴って地形地質・植物・動物・自然景観・水質の予測・評価などの内容も変わることになります。
 これらの取り扱いをどのようにするかを整理した結果、計画の変更であっても事業予定地域に含まれる地域内における変更であるなら、計画の規模が拡大するものではないこと、すでに環境に係る現状調査が行われているので、地域内での環境の現状が把握されているために、予測評価を行うに当たり特に支障をきたすことはないことなどから、計画の変更という考えではなくて事業予定地域内での計画の修正とするのが妥当であり再度アセスメントに係る手続きをやり直さなくともよいという結論に達したわけであります。
 当然のことですが、この変更が事業予定地域外まで及び、新たに事業が予定される地域についての現状調査もほとんどない場合には、現状調査の実施や関係地域住民の意見に関する手続きが必要であり再度アセスメントに係る手続きが必要であると判断したわけであります。
 ところが評価書によれば、事業者は佐幌岳北斜面の現状調査をまったくと言っていいほど行っていません。佐幌岳北斜面にはクマゲラの採餌木がたくさんあるので、故意に調査を行わなかったのではと勘繰りたいほどです。またナキウサギ生息の可能性も高く、詳細な調査をする必要があります。

クマゲラについて

 私たちは1992年2月に佐幌岳北斜面の調査を開始し、クマゲラの採餌木を確認したため道や事業者にも知らせました。また4月5日にはスキーコース予定地から500m以内と思われる所に一本目の営巣木を確認しました。4月10日には小田島護氏が二本目の営巣木・ねぐら木・オス個体を確認しています。事業者も4月10日までには営巣木を確認しています。しかし、道・審議会・事業者は揃ってクマゲラの存在を無視したまま、審議会答申(3月13日)・知事の審査意見書(3月31日)・修正評価書の提出(4月13日)・修正評価書の容認(6月2日)を行いました。特に、事業者が修正評価書でクマゲラに一切触れず、道も修正評価書の容認をした事は、北斜面開発の許認可申請が出てきた場合、大きな争点となります。

サホロ湖の富栄養化について

 サホロリゾート施設から出る汚水とゴルフ場から流出する肥料によりサホロ湖の窒素・リン濃度が二倍になるということは審議会答申でも問題とされました。しかし「施設から出る汚水はサホロ湖より下流の佐幌川に流す」との解決方法には、非常に疑問があります。

ゴルフ場農薬について

 私は、ゴルフ場農薬情報の非公開・農薬使用計画の信憑性・有機銅の魚毒性・農薬の使用量などゴルフ場農薬の問題について指摘して来ました。特にトマムの環境影響評価書に対する意見書では、農薬の流出予測についてかなり詳細に数値的な再評価を行いました。しかし審議会は、
 評価書においてゴルフ場で使用される農薬の流出予測および評価がされていますが、現在農薬流出予測におきましては農薬の流出率や想定すべき降水強度等学術的に不明な点が非常に多いわけであります。従って現段階では手法の妥当性について判断は出来ないので、必要な諸対策を講ずることにより事業予定地域からの放流水質が環境庁の示した農薬の暫定指導指針の基準を達成することを前提として問題がないとしましたが、農薬の使用に当たっては関係法令を遵守して農薬の管理や使用方法を適正に行うよう意見を付したわけであります。
 農薬については、このようなことから農薬の予測を評価書に記載することには問題があり削除する必要があると考えます。
と、農薬の予測を評価書から削除する事で、農薬が環境に与える影響を検討の対象からはずしました。私は、「環境庁の示した農薬の暫定指導指針」は魚などへの影響を一切考慮せず、有機銅の指導指針値は魚の半数以上が死ぬ濃度であるなど指針値自体に問題があることを指摘していましたが、審議会答申では無視されました。

ゴルフ場農薬情報の公開について

 農薬情報の公開については道や事業者に要望書・質問書等で求め続けてきましたが実現しませんでした。しかし市川守弘弁護士よりアドバイスを受け、1992年6月に「北海道公文書の開示等に関する条例」に基づく開示請求を行いました。道は「農薬情報開示についてはゴルフ場事業者と協議中」として非開示決定をしましたが、私たちはその違法性を指摘して異議申立てを行いました。しかし道は、ゴルフ場事業者の同意が得られたとして情報公開に踏み切り、異議申立ては「訴えの利益がなくなった」として却下されました。私たちは随分遠回りをして農薬情報公開にたどりつきましたが、この事で法知識の重要性を実感しました。

有機銅の使用禁止に向けて

 有機銅は魚に対する毒性が高いため使用禁止を求めてきましたが、農水省も1991年11月に魚毒性が高いことを認め、登録が魚毒性B類からC類に変わりました。しかし道は、代替農薬が無いことを理由に有機銅容認を決めてしまいました。今年は世論を盛り上げ、何としても使用禁止にさせたいと思っています。

知事意見書に異議申立て

 私はサホロリゾート環境影響評価書に対する知事の審査意見書を不服として異議申立てを行いました。しかし道は、
 北海道環境影響評価条例の目的は、開発事業を直接規制することにあるのではなく、開発事業の環境に及ぼす影響について資料の公表や地域住民等の意見の反映を図るなどして、環境影響に関する知事の見解を取りまとめ、この見解を開発事業者や当該事業の許認可権者等に伝えて、それぞれの責任で行う開発事業の実施や許認可等に関する適切な意志決定に資することにある。そのため、この条例の目的を実現するための手段として、罰則や工事実施の制限などいわゆる実効性の担保に関する規定は特に設けられていない。このことは、強制的な手段により条例の目的を実現するのではなく、環境影響評価制度に対する、開発事業者、開発事業の許認可権者、関係市町村長、関係地域の住民等の理解と協力によって条例の目的を実現しようとすることを意味する。
 審査意見書は、それ自体は、開発事業者に対して、権利を設定し、義務を課し、その他具体的な法的効果を発生させるものではない。審査意見書の通知を受けた開発事業者は、自らの責任と判断によって、既に行った環境影響評価を検討し、見直すというのが条例の立場であって、審査意見書によって環境影響評価の変更を強いられるものではないからである。したがって、本件審査意見書は、開発事業者に対する処分ではない。
 行政不服審査法による不服申立ては、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為を対象とすべきであって、これに当たらない行為を対象とする不服申立ては、不適法である。
として却下しました。門前払いのため異議申立ての理由については検討されませんでしたが、環境アセスメントに実効性が無いことを道みずから認める結果となりました。

トマム環境アセスメントの審議会答申について

 トマムの環境アセスメントでも意見書提出・公聴会公述をしたのですが、その後はサホロリゾートの方が忙しくて情報交換が中心になりました。
 1992年11月、トマム環境アセスメントに対する審議会答申がありました。本当の結果は修正評価書が提出されなければ分からないのですが、かなりの計画縮小が予想され、少なくともサホロリゾートに対する答申よりは厳しい内容のようです。
 もちろん実効ある環境アセスメント制度の法制化が急がれますが、実効性が無いとされた環境アセスメント条例でも、運用次第で効力を持たせることは可能だということです。要は、役人にやる気を起こさせる世論作りという所でしょうか。そういう意味では、私たちの活動なども少しは効果があったのかなと思っています。ほとんど無駄と思える活動の積み重ねが、いつの日にかほんの少しだけ世の中の仕組みを動かすと信じて、これからも無駄の積み立て貯金は続けるつもりです。

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