町村に学ぶ情報公開

公職研発行「地方自治職員研修」1997年7月号

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フロッピーディスクによる情報公開

芳賀 耕一

 新得町では、町議会の会議録は図書館に行けば見ることができるし、一枚十五円でコピーもしてもらえる。しかしながら、何冊もの会議録から目的のページを探し出すのはなかなか容易なことではない。会議録をテキストファイル(フロッピーディスクなどに保存された文書データ)の形でコピーしてもらえれば、パソコンを使って簡単に検索できるのだが…。そんな事をふと思ったのは昨年五月のことである。 新得町議会では、会議録は六年前より事務局がワープロで作成している。以前、私が町議会で意見陳述したときには、事務局の手間を省くため、陳述書の原稿をフロッピーディスクで持参して、議会事務局のワープロにコピーしてきた。コピーについての技術的な問題は何もない。 もちろん、議会の会議録は公開を前提として作られているから非公開とすべき情報は一切含まれていない。いろいろと考えてみたが、電子媒体による情報公開に何一つ問題があるとは思えなかった。ただ、全国的に前例が無いだけだ。 新得町で「公文書公開に関する取扱基準」がスタートした一九九四年十二月、町助役は「大切なのは、情報公開に対する職員の姿勢。職員の姿勢さえしっかりしていれば、むしろ条例よりも柔軟に対応できる利点がある。」と言っていた。私はこの言葉に期待して、町議会会議録のフロッピーディスクについて公文書公開請求してみることにした。正直言って、不受理とされても文句の言える筋合いじゃない。 運が良かったのは、議会事務局にちょうど町議会議長が居合わせたことだ。請求の趣旨などを説明すると、議長は事務局職員にいくつか質問した後、「もともと公開されているものだから、とくに問題はないだろう」との見解を表明してくれた。私は勢いにのって、町長にも説明に伺うと、同じく「とくに問題ないでしょう」。前例のないことは、やはりトップの決断が重要である。 その後の町の対応は驚くほど迅速で、なんと二日後には、新しい「公文書公開に関する取扱基準」が誕生したのである。 新聞報道等によれば、議会会議録のフロッピーディスク公開は全国初の「快挙」らしいが、私が何より感心しているのは、全国的に前例の無いことをこれだけ迅速にやってしまった新得町の対応の素早さだ。

北海道議会事務局の対応

 前例はできた。次は北海道議会に公開を求めてみよう。情報公開条例に基づく請求だと不受理になるのが明らかだったので、北海道知事あての電子メールで、道議会会議録のフロッピー複写とインターネット上への公開を要望することにした。 私としては、道庁不正経理事件で最悪の評価を受けていた北海道に、ほんの少しだけでも名誉挽回するチャンスをプレゼントしたつもりだったのだが、返事のメールは、「会議録検索システムにつきましては、議員の調査研究活動を円滑に進めるため、検索事務の迅速化と正確化を図ることを目的としたものであり、いわゆる内部の業務用として位置付けられております。また、このシステムは、現状ではデータの蓄積段階にあり運用までには至っていなくこの具体的な運用方法等については、今後検討することとされており、現段階においてフロッピーの複写及びインターネットでの公開は、ご希望に添うことが難しいとのことですのでご理解いただきたいと思います。」という内容だった。道議会には相談せず、事務局の判断ということだが、いかにもお役所らしい文章で、公開したくない本当の理由はさっぱりわからない。 とにかく、新得町とは対照的な対応であった。

議会会議録のデータベース化

 北海道議会は一九九五年度より道議会会議録検索システムの作成に取り組んでいる。来年度には、過去二十八年間分の道議会会議録データベースが完成の予定で、四年間の総予算額は約七千四百万円だ。データ入力は、ワープロで作成した会議録フロッピーディスクからデータ変換するか、印刷された会議録を文字OCRで読み取る。データ入力委託料は入力方法(フロッピーディスク保存の有無)によって大きく異なり、一年分につき一〇二万円あるいは二七九万円となっている。 ところが、道議会事務局は一九九四年までの会議録について文書データをすべて削除してしまったと言う。一枚数十円のフロッピーディスク代を節約したおかげで、結局一年分につき一七七万円も余分な出費が増えたことになる。他の自治体には同じ失敗を繰り返して欲しくない。 議会会議録データベースは、全国で百前後の自治体が導入しているらしい。今後、他の自治体にも広がっていくのだろう。しかし、議会会議録データベースに多額の経費をかける必要はないと思う。議会の会議録というのは、テキストファイルのままでも十分データベースとしての利用価値が高い。私のパソコンのハードディスクには新得町議会の会議録が二年分保存されているが、特定のキーワードで全文検索しても五秒後には検索結果が表示される。あとは閲覧も印刷も思いのままである。データベースシステムを構築するにしても、ほんのちょっと手を加えればいい。 大切なことは、ワープロやパソコンで作成した文書データをきちんと保存管理しておくことだ。議会会議録だけではない。条例や規則などの文書データをきちんと保存管理しておけば、簡単に例規集のデータベースができる。

インターネットと行政情報の公開

 ホームページを開いている自治体は多いのに、どうして議会会議録を公開しないのだろう。議会会議録はインターネット上に公開するのに最適な行政情報のひとつだと思う。 まずは新得町からと、町長の了解を得て、私のホームページに町議会の会議録を公開してみた。テキストファイルがあったので、手間も経費もほとんどかかっていない。 テキストファイルさえあれば、議会会議録のインターネット公開に必要な予算は、せいぜい数十万円だろう。議会を市民にとって少しでも身近な存在にする方法として、これほど低コストな方法は他にはあるまい。 さて、あなたの自治体では、どうして議会会議録をインターネット上に公開しないのだろうか。

情報公開は誰のためか

 自治体の交際費や食糧費について、情報公開訴訟が相次いでいる。自治体職員にとって、交際費や食糧費は出来るだけ隠しておきたいものらしい。しかし、隠して利益になることが本当にあるのだろうか。見せたくないものであればあるほど、後で見つかって手痛い目にあうのではないか。 私が新得町に交際費と食糧費を情報公開請求したとき、町は「中には、ちょっとどうかなという支出もありますが、とにかくすべてお見せします。改めるべきところは今後改めていきます。」と、接待相手先の個人名を除き、すべて公開した。そして実際に、翌年は交際費・食糧費を大きく減らしている。文書隠しや文書改ざんを繰り返した北海道と比べて、どちらが利口なやり方か。 高知県のやり方はさらに進んでいる。なんとインターネット上に食糧費執行状況(http://koukai.pref.kochi.jp/)を公開してしまったのだ。各支出についての個別的なデータをこれだけ堂々と公開されたら、県民にすれば見る必要性が無くなってしまうかも知れない。 知る権利は国民にとって重要なものであるが、実際に情報公開によってもっとも大きな恩恵を受けるのは他ならぬ自治体職員のように思える。少なくとも、住民の信頼が得られなければ自治体職員は気持ちよく働けないだろう。私の考えは間違っているだろうか。

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